島の畑に立つと優しい風と共に、ふと懐かしい歌声が聞こえてくるような感覚になります。「そうか、戦前まで畑では労働歌であるユンタ・ジラバが歌われ農作業していた。畑も、農作物もそこに生きているものたちは皆、その歌声を聞いて喜んで一緒に楽しんでいたんだぁ。歌声はいのちの栄養になっているかもしれないねぇ。」そう思いました。海外のワイン蔵ではモーツァルトを聞かせて醸しているように、ここの大地は人間の歌声を聞いて育っている。八重山の芸能の豊かさもここが原点なのかも、そんな思いが溢れてきます。農作業することで私の心身が育まれ整えられ、魂の喜ぶことをしたいなと思いました。
“そんな大地と暮らしたい”という思いから農地探しが始まりました。「ここがいいな」と気軽に言っていた土地が、数か月して向こうからやって来ました。不思議なことが連続して起こったので、土地も私を希望しているかもしれないと思い、この土地を求めることに決めました。その土地は、御嶽という島の祈りの聖地に隣接した所です。御嶽は島の祭りごとの中核を担っています。畑はその御嶽の杜のエネルギーに包まれ育まれているのです。
農業をやるなら7代先の子孫に手渡せる土地の使い方をしたい。農薬や化学肥料を使わないことはもちろんのこと、土壌にできるだけバランスのよい微生物を育てるというたんじゅん農(炭素循環農法)を始めました。土地を購入時、大雨台風ごとに大量の土が流出していました。水はけも悪かったので、畑の高低に沿って溝を造り、その溝沿いに土砂流出防止にペチュパを植えました。畑の一部にも溝を掘りその中に枯れた枝木投入し埋め戻すなどして水はけの改善に努めました。ペチュパは定期的に刈り取り粉砕し畑の肥料として使用しています。こうして畑づくりを進めていきました。北方に見える沖縄県一高い於茂登が腰当(くさてぃ)(沖縄方言:信頼し、寄り添い身をまかすという意味のことば。村の祖霊神を背に、祖霊神は村を抱き愛し護るというような意味で使われる。)としてこの大地・畑を守ってくれているようで、安心して気持ちよく作業ができます。
私達は畑や杜の木々を見ていますが、畑も杜の木々も私達人間を見ています。人が人と交流するように、私たちは大地・植物とも相互に交流しているのです。だから畑に入るときは、「今日もよろしく」と挨拶をして仕事にかかります。
自然療法を実践していた私に、友人からヘナを植えてみないかとお誘いを受けました。友人は、「ヘナ栽培は、日本では沖縄が最適。天然100%植物素材ヘナは、人々の髪を元気にして健康にしていく。今や70%ほどの人々がカラーリングをしているけど、多くがケミカルなものが混じりだんだん髪のトラブルが増えてきている。美容師さんは、それで健康を害して辞めた方も多いのよ」と。
パーマ、カラーリングは人を美しくするために作られたのに、それを使えば使うほど体に害が出て来る。困ったものだ。ヘナは現代の私たちに本当に必要とされていると思いました。友人が勧めるヘナ染めを私は迷わず体験しました。すると、うっすらあった白髪は全く目立たなくなり、髪はトリートメントしたように艶々。これは本当にいい商品だと思いました。私はまだ白髪が少ないので、ヘナ染めだけでいいのですが、白髪が多い方はインディゴ(インド藍)を追加し、ブラウン~黒っぽく染めます。インディゴ(インド藍)は、名前こそインドですが、地元の織り染めにおいての藍染めは、古くからこのインディゴを使っています。立派な八重山・石垣島産です。
早速ヘナの苗を仲田園芸(ホームページはこちら)さんから、インディゴの種を石垣市織物事業協同組合さんから分けてもらい植えました。自然にも暮らしにも負荷をかけない安心・安全ないいいものを作っていこう。地元石垣島の自社農園で、畑の栽培管理からまずやってみよう、100%石垣島産で。そう決意しヘナ・インディゴの栽培が始まり試行錯誤の連続の日々となりました。
ヘナ・インディゴはパウダー化した商品になっています。パウダーにするためには、乾燥し、粉砕します。最初は天日乾燥後に除湿器等を用いて乾燥を試みました。しかし天候に左右され大した量ができませんでした。それから乾燥機での乾燥を試み、温度・時間を試行錯誤しながら決めていきました。生枝120キロを乾燥しても乾燥した葉っぱは15キロほど。さらに粉砕過程を踏むと約1/10程度です。
粉砕も良質なものに仕上げるため、粗粉砕して後、微粉砕をすることにしました。粉砕によるを熱を持たない水冷式の臼式の粉砕機にこだわり上質に仕上げています。
家族の死を覚悟して毎日ドキドキしながら暮らしていた頃、胸から湧き出てきたのは「今、喜びに生きる」ということでした。いのちは今が連続したものですから。一生喜びに生きるということです。
〇この世界は私の宇宙。すべてはいのちの相互交流。私はあなた、あなたは私。理解しはぐくみ合い成長していく喜びに生きよう。
○畑は7代先の子孫に手渡しができるように、自然環境に負荷をかけず、循環した喜びの農を営もう。大地で心身を整え、自然をよく観察し、すべてのいのちは繋がっていることを感じる生き方をしていこう。
〇良いものを作る喜びと喜ばれるものを。安心して使える高品質のもの。作り手の思いやその背景を知らなくても、本当にいい商品とわかるような。
畑はご縁があって御嶽の杜に隣接しています。御嶽はかつて神の降り立つ所として地域の人々の祈りの場、精神の源として人々を育んできました。 髪(かみ)と神(かみ)。うたきの杜にはぐくまれたヘナは~神をまとう髪~となり、インスピレーションや直観など自然を感じ感性が豊かになっていくことでしょう。